![]() それなりに面白かったが、続きは買わないし、この巻もすぐ手放すだろう。ただ、私に合わないだけで、前向きな純愛物&少年の成長物語だとは思う。 話の趣旨は違うが、雰囲気としては片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』(感想)が好きな人なら、OKなんじゃないかな? 小4の大江朔は、母と弟と3人暮らし。父は不明(多分、何かの伏線)。 8月2日、10歳の誕生日。クラスメートの川原砂緒と初デートした帰り、ベンチで数分うとうとしたつもりが、帰宅したら7年が過ぎていた。少し老けた母はすぐに自分を認めてくれるも、15歳になっていた弟は気味悪がって警察を呼び、警察も悪戯を疑う(指紋や歯形で本人と同定された)。 そして何より、あの日「守ってあげる」と約束した砂緒も、17歳へと成長してしまっていた。
特筆すべきは、第一章のデートシーンのこっ恥ずかしさ(注:褒めてます)。
「砂緒ちゃん、名前でよばれるのは、いや?」 「ちょっと恥ずかしいけど……、朔くんにならいい。特別だから……」 ……変な呻き声を上げて身悶えしながら絨毯の上をゴロゴロ転げ回りたいくらい、読んでいて恥ずかしい! 多分、人によっては「げふっ」と血を吐くくらいのダメージを受ける(注:褒めてます)。 しかし、第二章でいきなり、朔を取り巻く状況は一変する。 小4の一人称にしては感性マセすぎ、とか、こんな理想的すぎる彼女(7年間一途に帰りを待っていて、10歳のままの朔を見ても全く態度を変えない)はいないよ、とかは思うが。 近隣住民や昔の同級生から見れば、7年前に行方不明になった少年が当時の姿で帰ってくれば、化け物扱いするのも当然だろう。弟と年下の兄との間に葛藤もあるだろう。砂緒の両親だって、娘を関わらせたくない。 一方、朔の立場からは、一瞬にして自分以外が7年成長し、取り残された上に化け物扱いされるのは納得できる筈がない。自分は何も悪くないのに。 そういう理不尽な逆境を受け入れて、自分より背が高くなった砂緒とも正面から向き合い、普通より遅れたけれどこれから自分は大人になるんだ、と決意するまでの話。と思えば、それなりに面白い。 (少し、梶尾真治『黄泉がえり』を思い出した。朔は死んだわけではないが、戻ってきた人間に対処するためには、社会システム側も受け入れ態勢が必要なんだよね。行方不明のまま卒業したことになっている小学校とか。) 朔に猛アタックする押し掛け彼女の登場。朔と砂緒が不良に絡まれる危機。弟との、砂緒を賭けた勝負。朔との仲を裂くため、砂緒を外国へ連れて行く両親。恋愛物としては、お約束だな(苦笑)。 ただ、なぜ時を超えたのか、は最後まで不明だし、誰もそれを追及しない。謎の『声』が関係していることは確かで、続巻で真相が明かされるのかもしれないけれど。 “10歳のまま7年後に現れた”という設定は、ホラーにもSFにもミステリにも筋を展開できると思う。ただ、著者が書きたかったのは(割とベタな)初恋の物語であり、謎解きを期待した私の趣味とは違っていた。というわけで、続巻は買わない。 PR |
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