文庫本の発売日だった。男が書店の袋を抱えて帰宅すると、ベッドの上で、読みさしのハードカバーが言った。
「私という本がありながら、また浮気するのね」 「えっ」 男の目が泳ぐ。 「あなたやっぱり、新しい本のほうが好きなんだわ」 「いや、これは違うんだ」 「どこが違うのよ」 言い募るハードカバー。 「いつも他の本とばかり出かけて、私は連れて行ってくれないじゃない」 「だって重……」 「重い本は嫌い?」 「そ、そんなことはない。いつも悪いと思っている」 「じゃあ読んで。ねえ読んで。今すぐ。ここで」 その夜、男はベッドで一睡もせず、ハードカバーを読み続けた。 嫉妬 / 別れ PR |
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