「わかっているわ。私はもう、用済みなのね」
男が外出しようとしたとき、鞄の中のハードカバーが言った。 「私がこの家に来てから初めての、あなたとのお出かけが、お別れの旅だなんて」 ため息をつくハードカバー。 「所詮、あなたにとって私は、一度読んだら満足する程度の本なんだわ」 何となく後ろめたい気分になって、男は弁解する。 「そ、そんなことはない。読んでいた間は、実に楽しかった」 「本当に?」 「本当だよ」 「じゃあ読んで。ねえ読んで。もう一回、もう一回でいいから」 男は古書店に行く予定をやめて、家でハードカバーを最初から読み始めた。 嫉妬 / 別れ PR |
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