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【小話】別れ
「わかっているわ。私はもう、用済みなのね」
 男が外出しようとしたとき、鞄の中のハードカバーが言った。
「私がこの家に来てから初めての、あなたとのお出かけが、お別れの旅だなんて」
 ため息をつくハードカバー。
「所詮、あなたにとって私は、一度読んだら満足する程度の本なんだわ」
 何となく後ろめたい気分になって、男は弁解する。
「そ、そんなことはない。読んでいた間は、実に楽しかった」
「本当に?」
「本当だよ」
「じゃあ読んで。ねえ読んで。もう一回、もう一回でいいから」
 男は古書店に行く予定をやめて、家でハードカバーを最初から読み始めた。


 嫉妬 / 別れ

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【2011/09/06 23:00 】 | 小話 | コメント(0)
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