真っ暗な夜だった。人気のない坂道を必死に駆け上がっていた男は、蕎麦屋の屋台の明かりを見つけると、息を切らしながら走り寄った。
「い、今そこで、変な女が、女の顔が」 蕎麦屋の主人が振り向く。 「それはこんな顔でしたかい?」 と言った主人の顔は、ゆで卵のようなのっぺらぼう。 「ち、違う」 男は首を振る。 「もっとこう、口が」 説明しようとする男の後ろから、女の声がした。 「ねえ、私キレイ?」 手に鎌を持ち、耳まで裂けた口で笑う女の顔を見た男とのっぺらぼうは、「ぎゃああ!」と叫んでその場から逃げだした。 PR |
![]() |
![]() |
|
![]() |