![]() GHQ占領下の日本、昭和24年7月5日。下山定則・初代国鉄総裁が失踪し、翌日、轢死体となって発見された。警察は自殺と発表したが、謀殺を主張する声もあり、未だに真相は不明である。 森達也『下山事件〈シモヤマ・ケース〉』(新潮文庫)は、当時テレビ関係者だった彼が、一人の情報提供者と出逢ったことから始まる。『彼』は言う。自分の祖父が、下山事件の関係者かもしれない……。
下山事件の本としても充分に面白いが、著者自身が付記で「事件の真相を探ろうとする自分に興味を失った」と書いているように、この本の主眼は謎の解明ではない。森氏は以前、予備知識のない若い女性が、下山事件を取材するうちに変化していく過程を追ったドキュメンタリーを撮ろうとしていた。同様にこの本は、事件そのものではなく、それを取材する森氏のドキュメンタリーだと思う。
特に印象に残ったのが、メディアの裏側というか。TVの報道番組の企画としてスタートしたが、取材に時間がかかりすぎるために中止され。次に週刊誌の協力を得るも、これ以上待てないということで、不本意な形で連載開始する羽目になり。組織が求める費用対効果と、個人の思いは噛み合わない。 森氏に取材協力した週刊誌記者による諸永裕司『葬られた夏 追跡下山事件』、のちに情報提供者の『彼』自身が綴った柴田哲孝『下山事件最後の証言』(感想)もあるので、いつか読んでみたい。が、事件そのものについては、国鉄OBが森氏に語った言葉が全てを表している気がする。 「国鉄の男は線路では絶対に死なない。なぜならその行為が、どれほどに同僚や部下たちに迷惑をかけるかを知っているのだから」 PR |
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