昨夜が、普段の満月より大きく見えるスーパームーンだったので「月百首」を読み返したくなり、佐藤弓生さんの第四歌集『モーヴ色のあめふる』を久しぶりに開いた。mauve(仏語)とは、薄く灰色がかった紫色だそうだ。
まだ選んでいなかった、恒例の好きな歌を十首を選んでみる。 けんかした みずうみふかくしまわれて忘れたことを忘れた小石 雲が……。ねえ縁側に来ておすわりよ、落ちてゆくのはいつでもできる ふれたならそれはみな星 こえ こころ ことばはやがて腐敗する星 人は血で 本はインクで汚したらわたしのものになってくれますか ふる雨にこころ打たるるよろこびを知らぬみずうみ皮膚をもたねば (スヰングバイ)(スヰングバイ)と水夫のこゑ (さらば金星)(さらば人生) 人はすぐいなくなるから 話してよ 見たことのない海のはなしを ひとの恋ひとの死いくつ映せども空の鏡は忘れる鏡 言語野はいかなる原野 まなうらのしずくを月、と誰かがよんだ 月は死の栓だったのだ抜かれたらもういくらでも歌がうたえる この歌集の印象を三語で表すと、「死」「忘却」「ことば」かな。著者あとがきに〈人がすぐ死ぬこの世をうたいながら〉とあるように、本書に限らず佐藤さんの歌は死のイメージが強いのだけれど。 |
|