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【感想】冷たい方程式
冷たい方程式  トム・ゴドウィン他のアンソロジー『冷たい方程式』(ハヤカワ文庫SF)収録の表題作。
 SF界隈では有名な短編なので、状況設定だけは知っていたのだが、読んでみたら話の方向が予想と違った。

 辺境惑星へ血清を届ける途中の小型宇宙艇で、密航が発覚。
 燃料ギリギリしか積んでいないため、密航者を乗せたままでは減速用燃料が不足、惑星の大気圏突入に失敗して墜落する。
 密航者を下ろすために引き返せば、血清が間に合わず惑星上の6人が死ぬ。
 6人を助けるには密航者を宇宙へ放り出すしかないが、密航者はまだ18歳の少女だった。

 以下ネタバレ注意。
 小型艇パイロットが、6人を救うか少女を救うかの選択を迫られる(或いは、反則技の解決策として、少女を残してパイロットが死ぬ)話だと推測していたのだが。
 実際は、少女の死は確定で、彼女自身にそれを受容させる過程の物語だった。
 少女は小型艇が部外者立入厳禁だと解っていたが、密航=艇外遺棄とは知らず、軽い気持ちで乗り込んだ。パイロットが心情的にいくら彼女を助けたくとも、物理的に不可能。自分の運命を知った少女はうろたえる。
「でもわたしは死ぬようなことはしていないわ――死ぬようなことはなんにも――」
 ……密航によって、6人とパイロットの命を危険に晒した加害者なのに、一方的な被害者面するんじゃないよ。と正直、腹が立った。彼女の無思慮な行動のせいで、パイロットはこれから少女を殺した罪悪感を抱えなければならないのに。
 しかし、最後にエアロックに自ら歩いていく少女を見て、少し考えが変わった。

 この事件自体は悲劇だ。しかし、過去にも密航の事例がある以上、備えていれば防げた悲劇だった筈。
 密航=死である事実、法律上の問題ではなく物理的な必然であることを、母船乗客に徹底的に教育する。それでも「まさかそんなことはあるまい」と高を括る人間は出るだろうが、密航者の総数は減る。
 母船の警備体制を強化、部外者の小型艇接近を阻止する。出航前に小型艇内の熱反応をチェック、密航を水際で防ぐ。
 対策を取れば、パイロットが直接手を下す精神的苦痛は減らせるのに、それをしないのは上層部の怠慢だ。
(あと、密航以外にも不測の事態で余分の燃料が必要なこともあろうに、本当にギリギリしか与えないのは、「何か一つでもトラブルがあれば諦めろ」とパイロットの命を軽視している気はする。)
 ひたすらパイロットが気の毒な話だった。

 同時収録のC・L・コットレル『危険! 幼児逃亡中』も、多数を救うために8歳の幼女を殺すか否かという、ある意味『方程式』以上にやり切れない話。
 非常に困難ではあるが、幼女の超能力の暴走を止める術さえあれば、彼女を殺さずに済む可能性がゼロではない。少女が死ぬ以外の解が存在しない『方程式』と違って、実行側もそりゃ躊躇するよ。また、8歳では本人に死を納得させるのが無理なのも、更に悲劇。
 結果論だが、幼女がよく知る人物が、夜が明けてから穏やかに説得すれば、今回の惨状だけは回避できたんじゃないかなぁ……近い将来に似た事態を繰り返す可能性は高いが。

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【2013/01/10 05:36 】 | 感想SF | コメント(0)
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