
読むたびに、こういう小説を書けるようになりたいと思う。G・ガルシア=マルケス
『予告された殺人の記録』(新潮文庫)。
町を挙げての婚礼騒ぎの翌朝、サンティアゴ・ナサールという一人の青年が殺された。町の多くの人間が、犯人たちが彼を待ち受けていることもその動機も知っていたのに、そして犯人たちは阻止されたがっていたというのに、運命的とも呼べるほどの不幸な偶然が重なってサンティアゴは殺されてしまったのだ。約30年後、彼の親友だった「わたし」は、当時の関係者に話を聞いて回る。
事件は過去のことであり、彼が殺されたことは、最初の一行から明らかにされている。犯人が誰かも、動機も、凶器が何であるかも、早い段階で判る。だが、彼が実際に“どのように”殺されたのかは、最後まで描かれない。運命で定められたかのような彼の死の場面で、物語は終わる。
ガルシア=マルケス自身も暮らしたことのある田舎町で、実際に起きた事件がモデルであり、当初はルポルタージュとして書かれる筈だった。たった一つの事件を通して、人々のそれまでの生き方、その後の生き方、町の中に潜むものが見えてくる。薄いのに、凄い本だと思う。
[0回]
PR