![]() まず、好きな歌を十首選んでみる。 ひしめきて壺に挿される薔薇たちの自分以外の刺を痛がる されど欝されど倖せコーヒーの底にみえないものを飲み干す 「信じるのはやめてください」温室に冬汗ばみて読む花ことば こんなにも明るい秋の飛行船ひとつぶの死が遠ざかりゆく 一枚の影絵となってしまうまで冬の欅と鳥の関係 火に落ちしドン・ジョヴァンニの叫喚が雨の歩道のうしろより来る 夏蝉も終りて候う月の国静かの海へあてたる手紙 毒のないぼくの短歌とよくなじむ信仰心のうすいマシュマロ 陽は遠く秋分点を超ゆる日のかたみのごとく曼珠沙華咲く 銀杏の青き実落つる風の朝 石女の詩をひとつ愛せり 歌人はクラシック音楽がとても好きなのだろう、音楽家や曲名や楽器の名前が歌に頻出する。しかし、私に素養がないために解らん(汗)。ドン・ジョヴァンニだけは、映画『アマデウス』を観たので解る。 で、私が好きな歌を選ぶと、私でも解る植物や自然の歌が多く残る模様。 かつて東京天文台勤務だった杉崎氏が時折他の歌人を案内するらしく、佐藤弓生氏が『眼鏡屋は夕ぐれのため』(感想)中で、何首か国立天文台三鷹を詠んでいるのは知っていたが。 歌人・前田透に、国立天文台野辺山宇宙電波観測所を詠んだ歌があるとは! 宇宙電波に白き影おくアンテナはさみどりの野に日をかえしおり 本書の「栞」ではこう書かれているが、宮内庁HPの昭和59年歌会始お題「緑」では、結句が「向きをかへりをり」になっている。どちらが正しいか知らないが、私は「日をかえしおり」が好き。野辺山の直径45mアンテナの白い鏡面が、陽光を受けて光っている様子が目に浮かぶ。 野辺山が詠まれていることを知ったのが、私にとっては本書で一番の収穫。 PR |
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