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噺家の円紫師匠と女子大生〈私〉のシリーズは、基本的に日常ミステリなのだが――。
『秋の花』では、高校3年の少女が、夜の学校屋上から転落死する。事故と思われているが、なぜ屋上にいたかなど詳細は不明。幼馴染の同級生は立ち直れず、抜け殻のようになっている。〈私〉は家が近所なので、二人とも小さい頃から知っていた。 不可解な出来事も、〈私〉の話を聞いただけで、円紫さんはするすると解いてしまう。しかし、そこで明らかになった真相は、生半可な殺人事件よりも残酷だ。〈私〉は円紫さんに問う。 「私達って、そんなにもろいんでしょうか」 「もろいです。しかし、その私達が、今は生きているということが大事なのではありませんか。百年生きようと千年生きようと、結局持つのは今という一つの時の連続です。もろさを知るからこそ、手の中から擦り抜けそうな、その今をつかまえて、何かをしようと思い、何者かでありたいと願い、また何かを残せるのでしょう」 「でも――明日輝くような何かをしようと思った、その明日が消えてしまったら、どうなのですか。その人の《生きた》ということはどこに残るのです」 作中の随所に宝石のような言葉が溢れていて、結末を知っていても、何度も読みたくなる本。 シリーズ5作目『朝霧』の感想はこちら。 PR |
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