北村薫『朝霧』(創元推理文庫)。『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』(感想)『六の宮の姫君』(感想)に続く、噺家の円紫師匠と女子大生〈私〉のシリーズ5作目。というか、現在刊行されている中では最後。とうとう、全部揃えてしまったよ(汗)。『朝霧』単行本は1998年刊。続きは存在しないのかなー、続いてもおかしくないラストなんだけどなー。あったら是非読みたい。
収録は、『山眠る』『走り来るもの』『朝霧』の3篇。シリーズ開始時は大学2年だった〈私〉が、『山眠る』で卒業論文を提出し、『走り来るもの』で就職。さらに本文に“私が入ってから二年、新人を採っていない”とあるから、『走り来るもの』内で2年経過している。これまで、話と話の間の時間の飛びはあっても、話の中の時間経過は緩やかだったから(長編『六の宮の姫君』でも約半年)、戸惑ってしまった。
さて、『六の宮の姫君』も危険だったが、『山眠る』も非常に危険である。
――俳句を作りたくなったじゃないか(汗)。 何かと俳句との縁が続く〈私〉。友人の卒論テーマが江戸俳諧で影響を受け、年末には俳人でもある大御所作家と歓談する機会に恵まれ。テレビで聴いた円紫さんの演目が『雑俳』、円紫さん自身も作るという。そして、同級生の父親である小学校校長が、長年打ち込んできた俳句を止めるという、最後の句。 穏やかな冬の山を示す季語、“山眠る”。俳句は、短歌より少ない字数に季語まで含めなければならないのが難しいと感じていたが、季語っていいものだなあとしみじみ思った。 (2008.6.10追記) 北村薫『朝霧』(創元推理文庫)収録、『走り来るもの』。これは、登場人物の女性が書いたリドル・ストーリーの題でもある。 リドル・ストーリーなる言葉を初めて知ったが、謎を提示するが解答を示さないまま終了する小説だそうだ。代表作フランク・R・ストックトンの『女か虎か』の筋が紹介されている。Web上で『女か虎か』を読んだが、二つの扉のどちらを選んだかは王女の内面の問題であり、ミステリのように論理的に解答を推理する手がかりはないと思う。読者は各自の視点から、彼女の心境を推し量るしかない。 (ちなみに、私は「王女は虎を選んだ」と思う。但し、自分がその立場なら女を選ぶ、人の死に責任を負いたくないので。彼女なら、敢然とそれを負えると思うのだ。) 作中の『走り来るもの』も謎を提示して終了するが、作者の女性曰く答えは一つであり、読めば分かる筈。“読者への挑戦状”みたいなものか、と考えたところで連想したのが、東野圭吾『私が彼を殺した』。あれも、作中に犯人を明記していないだけで、作者はコイツと決めて書いた筈だ。Wikipediaでは芥川龍之介『藪の中』も例に挙がっていたが、芥川も犯人を想定していたのだろうか。 ところで、北村氏も解説者も、女性の作品を“ショート・ショート”と呼ぶ。解答として伏せられたラスト2行は見事なオチだが、書かれた形の作品としてはショート・ショートではないと思うんだよね(私は、オチがある作品しかショート・ショートと認識しないので)。 PR |
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