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【感想】秋の花
秋の花  北村薫『秋の花』(創元推理文庫)。一昨年、後輩から〈円紫さんと私〉シリーズ1作目『空飛ぶ馬』と3作目『秋の花』を借りて読み、今年になって4作目『六の宮の姫君』(感想)を買った。で、もう一度『秋の花』が読みたくなり、購入。

 噺家の円紫師匠と女子大生〈私〉のシリーズは、基本的に日常ミステリなのだが――。
 『秋の花』では、高校3年の少女が、夜の学校屋上から転落死する。事故と思われているが、なぜ屋上にいたかなど詳細は不明。幼馴染の同級生は立ち直れず、抜け殻のようになっている。〈私〉は家が近所なので、二人とも小さい頃から知っていた。
 不可解な出来事も、〈私〉の話を聞いただけで、円紫さんはするすると解いてしまう。しかし、そこで明らかになった真相は、生半可な殺人事件よりも残酷だ。〈私〉は円紫さんに問う。

「私達って、そんなにもろいんでしょうか」
「もろいです。しかし、その私達が、今は生きているということが大事なのではありませんか。百年生きようと千年生きようと、結局持つのは今という一つの時の連続です。もろさを知るからこそ、手の中から擦り抜けそうな、その今をつかまえて、何かをしようと思い、何者かでありたいと願い、また何かを残せるのでしょう」
「でも――明日輝くような何かをしようと思った、その明日が消えてしまったら、どうなのですか。その人の《生きた》ということはどこに残るのです」


 作中の随所に宝石のような言葉が溢れていて、結末を知っていても、何度も読みたくなる本。

 シリーズ5作目『朝霧』の感想はこちら

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【2007/12/27 21:00 】 | 感想ミステリ | コメント(0)
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