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【感想】消えた細菌戦部隊 関東軍第七三一部隊
 常石敬一『消えた細菌戦部隊 関東軍第七三一部隊』(ちくま文庫)。
 二次大戦下の満州で、中国人やロシア人などの捕虜に対し細菌兵器や凍傷の人体実験を行った、通称石井部隊。10年くらい前に、実家で森村誠一『悪魔の飽食』を読んだので、知識がないわけではない。という状態で読み進む。
 ……何となーく、違和感(汗)。“どの部分に”感じているかは分かるのだが、“何に対して”かを掴めぬまま本文を読了し、あとがきに入ったところで、「ああ!」と疑問が氷解した。
 著者は、「どうして人体実験のような気味の悪いことを調べる気になったのだ」と質問され、次のように答えた。

〈直接の動機は、昨年一月に刊行された『ヒトラー政権と科学者たち』(岩波書店)の翻訳だった。私はその翻訳を進めるうちに、当時の日本の科学者たちはどんな意識を持ちそして行動していたのかを明らかにしたい、と考えるになった。そして従来あまり調べられていなかった細菌戦部隊を取り上げることにした。したがって最初の意図としては、一人ひとりの科学者が人体実験をやったかどうかという問題より、戦時下の科学者が軍上層部および体制等と、どうかかわったのか、そして彼らの研究の推進力が何であったかを明らかにすることにあった。〉

 この本、“731部隊は何をしたか”が主目的の本ではないのだ。科学史、あるいは科学倫理の本の一環として、選んだテーマが731部隊だった。だから、部隊には関係ない、遺伝子組み換えやクローン人間まで引き合いに出される。
(その点、“731部隊の悪事を告発する”というスタンスの『悪魔の飽食』とは、印象が異なる。)

(2008.7.8追記)
 731部隊は、二次大戦中に突然発生したわけでも、石井四郎部隊長が独断で暴走したわけでもなく、日本陸軍内で活動を認可された歴とした隊だったわけで。陸軍中枢部は、欧州の状況から、1920年頃には細菌戦部隊の必要性を感じていたらしい。731部隊が設立されるまでの過程には、石井を後援した軍高官が何人も存在する。
 その一人、小泉親彦。陸軍省医務局長の彼の実績が、細菌戦には関係ないが〈今日の厚生省および国民健康保健法を作った〉ことなのだそうだ。

〈それまで日本には今日の厚生省に相当する中央官庁も、また各地の保健所に相当する機関もともになかった。(中略)昭和期(一九二〇年代後半)に入るとともに徴兵検査の成績の低下が目立つようになった。(中略)こうした状況を打破しようとしたのが小泉だった。〉

 1938年1月、厚生省設立、引き続き全国各地に保健所開設。同年4月、国民健康保健法公布。
 小泉は1941年の第3次近衛内閣から、1944年の東条内閣退陣まで厚生大臣を、その後日本赤十字の理事を務めた。終戦直後の1945年9月、自決。
 ……厚生省って今、何かとタイムリーだから、その設立理由を知ると、ものすごく複雑な気分だよね(汗)。続く。

(2008.7.10追記)
 ノモンハン事件。という言葉は知っていたが、どんな事件かは全く知らなかった。
 1939年、モンゴル・ソ連軍と日本軍との間で起きた国境紛争。〈東京の陸軍省や参謀本部の方針は不拡大であったが、辻政信ら関東軍の強気の参謀たちは大規模な戦いを準備して、そして実行してしまった。〉5月に始まり8月に終了した戦闘で、公式には12,210人の日本兵が死傷した。しかし、のちに靖国神社で行われた慰霊祭では、18000人以上がノモンハンの戦没者として祀られたという。
〈これは「事件」などというものではない。戦争である。事件であれば勝敗は関係ないが、戦争であれば勝ち負けをはっきりさせなければならない。そのため事件で押し通すことにした。〉
 辻政信、という人物がいたことも知らなかったが、彼は終戦まで生き延び、戦後には国会議員になったという。『ノモンハン』という著作も書いている。
 このノモンハン「事件」は、731部隊が、細菌兵器を試験的に実戦使用した戦闘でもある。

 「文庫本のための長いあとがき」より。
 1989年、新宿区の陸軍軍医学校跡地で、多様な人種のモンゴロイド系人骨100体分以上が発見される。軍医学校には、731部隊の中枢部である防疫研究室があった。外科手術の練習をした痕跡もあり、〈軍医学校の教育・研究業務目的に関連して実験の末殺害された日本人以外のアジア人が中心である、と述べることができる。〉
 現在そこには、厚生労働省戸山研究庁舎、国立感染症研究所があるという。地図で場所を調べると、早稲田大学戸山キャンパスのすぐ裏手(汗)。うわあ、昔近くに住んでたよ。
 ……うん。何というか、知らない歴史がいっぱいあるなぁ、と思う。言い換えで済ませる、何の解決にもなっていない解決法とか、今の日本でも一緒だよね。感想終了。

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【2008/07/07 20:45 】 | 感想NF | コメント(0)
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