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【感想】「黄泉の国」の考古学
「黄泉の国」の考古学  辰巳和弘『「黄泉の国」の考古学』(講談社現代親書)。

 考古学というのは墓と葬送儀礼、つまり古代人の他界観(死後の世界をどのように捉えていたか)を理解することに尽きる、と思っている私にとって、このタイトルはツボです(取り上げる本に脈絡がなくてすみません(^^;)。おまけに、表紙が珍敷塚(めずらしづか)古墳壁画! 装飾古墳好きの私にとってこの本はツボ以外の何物でもありません。

 五世紀から六世紀にかけては、全国各地で大型の前方後円墳が作られ、古墳時代と呼ばれた時代です。当然、古墳にばかり光が当りがちなのですが、この時代にも古墳以外の葬法はあったのです。「洞穴葬」――海辺の海蝕洞穴や、山中の洞穴などに、遺骸を葬っていた古代人たちがいます。築こうと思えば古墳を築くこともできた権力者であっても、です。彼らは洞穴の向こうに他界を見ていた――そこには、古墳を葬送の場とした人々とも共通する思いが流れていたのでしょう。
 洞穴から発見される、丸木舟をそのまま転用した棺。古墳に埋葬された、船形木棺。古墳内部の壁画にたびたび描かれる舟のモチーフ。古代人たちは、「舟に乗って他界へいざなわれる」と考えていたのです。……それは、必ずしも現実の“海の向こう”へ行くことを意味しません。舟は、古代人にとってもっとも遠くへ行くことのできる乗り物です。「彼らの日常生活で理解される地理的領域を越えた彼方に」他界を見ていた古代人は、そこへ舟に乗って赴くと考えたのでしょう(同じ意味で、馬も「霊魂を他界へと運ぶ乗り物」と認識されていたようです)。
 私が大好きな装飾古墳というのは、古墳内部に壁画が描かれている古墳のことなのですが、そこにも舟は現れます。舳先にとまる鳥は、太陽を象徴する三本足のカラス。日本神話に見られる“天の鳥船(あまのとりふね)”のように、古墳内部に描かれた太陽や月や星の世界へ向けて船出していくのです。
 古代人の心を描いた辰巳氏の結びの文章には、私は何度読んでも心を揺り動かされるのです。

〈被葬者にとって、石室や横穴のうちが闇の世界であるなら、なぜその壁面を華麗ともいえる装飾図文や絵画で飾る必要があるのか。穢れた空間であるなら、なぜそこに王権儀礼のモチーフが存在するのか。
 古墳壁画はあくまでも被葬者(の霊魂)のために描かれたものであることに思いをいたすべきである。現世に生きる私たちが鑑賞するものではない。
 葬送の儀礼が完了し、閉塞された墓室の内部は眩しいばかりに明るく、透明感に満ちた世界なのである。読者は「さきほど、そこは漆黒の闇の世界と言ったばかりではないか」と言われるかもしれない。現世に生きる私たちにとって、石室や横穴の中は間違いなく暗闇の世界である。しかし、そこに横たわる被葬者にとって、そこは日月星辰とともにある明るい「常世の国」である。あらたな生を得た被葬者の霊魂にとって、そこは神仙とともに遊ぶ永遠の宇宙である。〉


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【2002/03/05 21:45 】 | 感想学術 | コメント(0)
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