![]() 前作 『アリソン』がめちゃくちゃ面白かったのだが、一冊で完全に完結した話だと思っていたので、正直「IIってどうなるんだろう……」という気はしていた。しかし、面白かった。やっぱり私にとってはIのほうが上だが、IIだって完成度は文句なし。どちらを選ぶかは、読者の好みの問題のような気がする。 IIは、最後の最後に真相が明かされて、それはそれで哀しいんだけれど、でも少しほっとする。希望が見えるような気がする。 Iは、最後の最後に真相が明かされて……とても、やるせなくなる。他に手段がなかったのはわかっているんだけれど、それがどうしようもなく哀しい。 ここから先、前作『アリソン』のネタをばらすので、未読で今後読むつもりのある方はご注意を。
アリソンとヴィルが探しに行った、“戦争を終わらせることができる宝”の正体は、壁画だった。
国境近くの洞窟の中に描かれた古代の絵。大河を挟み反目しあっている二つの連邦の人々が、実は同じルーツを持っていたことを示す絵。双方が、“自分の側こそ人類発祥の地であり、対岸へは後から住み着いたに過ぎない。自分たちのほうが格上だ”と主張していた戦争の根本原因が、完全に意味を失う絵だった。 それを最初に発見したのは、数十年前の戦争中、敵軍を毒ガスで殺す作戦を実行した特殊部隊の隊長ワルター。作戦から、ワルターだけが生きて帰り、他の隊員たちは戻ってこなかった。 彼が、殺したのだ。 “河向こう”の連中なんかと仲良くする必要はない。こんなもの壊してしまえ――そう主張する隊員たちから壁画を守るために、自分の部下を手にかけざるを得なかったのだ。 今は駄目だ。戦争真っ只中の今、この壁画の存在を公表しても誰も受け入れない。けれど、いつか……いつか、この壁画が、戦争を完全に終わらせる日が来ることを願って。 自分が殺した部下たちに詫びながら彼は生き続け、アリソンとヴィルの二人に壁画を託して――それが世界に公表される日を見ることなく、自殺した。 この話を読んだとき、私はレイ・ブラッドベリの『火星年代記』(ハヤカワ文庫NV)を連想した。 オムニバスなので、正確にはその中の一編――『月はこんなに明かるいが』である。 火星に第四探検隊が到着したとき、火星人たちは死に絶えていた。探検隊員は酒を呑んで浮かれ騒ぎ、隊員の一人ビグズは酔って火星の運河を“ビグズ運河”と命名する。運河に空き瓶を投げ捨て、滅んでなお壮麗な都市の廃墟で嘔吐する。そこに住んでいた先人たちの文化を無視し、土足でずかずかと踏み込む彼らの行為は、考古学者スペクターにとって許せないものだった。火星を地球人から守るため、スペクターはビグズを殺す。他の隊員を殺す。だが最後には、彼自身も射殺される。 その後、火星には次々と地球人が移住してくる。火星人たちが別の名で呼んでいたであろう山や川の到るところに地球式の名をつけ、自分たちの色で塗り替えていく。スペクターの危惧したとおりに……。 ワルターは、壁画を守り通した。戦争を終わらせることができた。 だからといって、彼がスペクターより幸せだったとは、とても言えないけれど。 『アリソン』は、無茶なアリソンと彼女に引っ張られるヴィルの二人の冒険が痛快で、わくわくする。“宝”が壁画だとわかったとき、考古学好きの私は、下手な金銀財宝なんかよりよっぽど「おおっ!」と叫びたい気持ちだった。 けれど、読み終えると……非常にやるせなくて、いつまでも忘れられない話である。 PR |
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