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【感想】チグリスとユーフラテス
チグリスとユーフラテス  新井素子『チグリスとユーフラテス』(集英社文庫)。新井作品は、『くますけと一緒に』『ひとめあなたに…』『ディアナ・ディア・ディアス』に次いで4作目。過去3作は全部借り物なので、読み返して確かめられないが……。
 こんなに“素子節”(と呼ぶらしい、独特の文体)が鼻についたのは初めてだ(汗)。

> あなたと、一緒に、生きたかったんだよおっ! (1st マリア・D)

> わたしは、わたしは、絵を描くのが、好きなんだあっ! (3rd 関口朋実)

 ……せっかく感情移入していたのに、一気に醒めるんだけど(汗)。
 朋実は、内心の叫びということで百歩譲ろう。マリア、「30歳のいい大人が、遺書でそんな文を書くか?」と言いたいところだが、書く人もいるかもしれないので(マリア曰く、きちんとした文章の書き方を習っていないそうだし)、その理由で文句をつけるのは止めておく。要するに、私の感覚に合わない文体だというだけなのだろう。
 ただ、他の部分ではさほど気にならなかったから……この2つの文の、最後の「お」と「あ」を取ってくれたら、それだけで、『チグリス~』に対する私の評価は劇的に上昇する。その直前まで、本当に盛り上がっていたから、尚更そこで断ち切られるのが惜しいのだ。
 “素子節”が苦手な方には辛いだろうが、しかし、内容的には一読の価値はあると思うんだよな。続く。

(2006.11.21追記)
 ……「お」と「あ」だけじゃなくて、次の「っ」も取ってほしいかも。というのはさておき、あらすじ。

 移民惑星ナイン。原因不明の不妊により人口が自然減少し、遂に<最後の子供>ルナが誕生する。他の住民が死に絶え一人残ったルナは、コールドスリープしていた過去のナインの人々を、順に起こしていく。そして、問う。「ママは、何でルナちゃんを産んだの?」

 とりあえず。末期ナインの為政者たち、滅亡したかったとしか思えん(汗)。<最後の子供>なんて事態になる前に、他にも打つ手はあったろうに……。とはいえ、そういう社会情勢であることを受け入れてしまえば。
 数少ない“有資格者(生殖能力保持者)”として生まれ育ち、有資格者であることが自らの全てであったマリア・D。なのに結婚しても妊娠できず、出産した後輩イヴを妬み、アイデンティティ崩壊寸前に追い詰められ、コールドスリープを選択するまでの過程は、読んでいて迫力がある。

 ところで。ルナが起こした1人目のマリアは30歳。2人目のダイアナ・B・ナインは33歳。3人目の関口朋実は30代後半。4人目のレイディ・アカリは90代だけど。この、30代に集中しているところ、意味あるのだろうか。
 そして恐らく全員、子供のいない女性。朋実は“生前”の記述が少ないので、断言できないけどね。続く。

(2006.11.22追記)
 関口朋実は、初期ナインの“貴族”。凍結受精卵と人工子宮から生まれた者が大半のナイン社会で、移民船クルーの子孫(朋実は曾孫)は崇拝されている。
 画家である朋実の絵は、ナイン社会で絶賛される。が、朋実は解っている。自分の絵は、プロとして通用するレベルではあるが、これほどの高評価には値しないということ。“関口”の血統が絶賛されているに過ぎないのだ。貴族であるが故の苦悩。

 ルナ+4人の主要キャラの中で、私が最も好きなのは朋実。だからこそ「あ」が(泣)。一番いいシーンなのにー。
 自分の人生の意味をルナに否定され、崩れ落ちかけた朋実は、最後の最後で立ち直る。自分は絵を描くのが好きだ、それだけを武器に。それを掴んだ彼女は、仮に自分がナイン最後の一人になったとしても描き続けるだろう。絵を見る人の有無など関係ない、ただ自分が描きたいから。ある意味、最強のエゴティスト(自己中心主義者)なのだが……。
 すっごく、よくわかる(苦笑)。

 ルナの問いとか、『チグリス~』の一番大事なところを放置している気がするが。自分が書きたいことは書き尽くしたから(←こういうところが自己中心的 汗)、終了。

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【2006/11/20 23:45 】 | 感想SF | コメント(0)
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