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【感想】ユージニア
ユージニア  恩田陸『ユージニア』(角川文庫)。裏表紙には、“日本推理作家協会賞受賞の傑作ミステリー”とある。
 ……ミステリという言葉に毎回、“全ての謎が一点の曇りもなく解明される”ことを期待してしまう私が、間違っていたよ(汗)。まぁ犯人は解るし、面白かったから良いけどね。作者も、〈グレイゾーンを描きたかった〉んだそうだ。

 昭和48年に金沢で起きた、「加賀の帝銀事件」とも言われた大量殺人事件。
 地元の名士・青澤家の祝いの席に、当主の旧友の名前で毒入りの酒とジュースが届けられ、家族や親戚や近所の住人17人が死亡した。家族で生き残ったのは、中学1年の盲目の美少女・緋紗子のみ。台所には、奇妙な手紙が残されていた。
 事件は、酒を運んだと目される青年の自殺で急展開。青澤家との接点がないため、他に主犯がいるとの説もあったが、結局は単独犯として処理される。
 当時小学5年で第一発見者となった雑賀満喜子は、大学4年の夏に事件関係者を取材し、それが『忘れられた祝祭』として出版された。
 それからさらに時を経て、また別の聞き手が、満喜子や関係者を取材して回る――。

 以下ネタバレ注意。
 1。取材を受けるため久々に金沢を訪れた満喜子は、かつて事件を担当した婦警に再会。大学4年の夏には聞かなかった証言を得て、衝撃を受ける。(もともと疑っていたが)緋紗子が犯人であると、確信したのだ。
 が。何故この証言で確信できるのか、最後まで読んでも理解できん(汗)。
 彼女の確信が、真相に対して正解か否かは問わない。とにかく、“満喜子が結論に至った道筋”が知りたい。
 ……これが、残った最大の謎だな。他の疑問点は、無理やり納得できなくもないから。続く。

(2008.11.4追記)
 ところで、恩田陸と言えば、私は過去に『木曜組曲』を読んでいる。いやぁ、アレは痛快だった。あの読後感を求めて読んだのが誤りで(汗)、むしろ『ユージニア』は、レイ・ブラッドベリ『何かが道をやってくる』を読むくらいのつもりで読んだほうが……と言うのは、流石に大袈裟か?
 関係者たちは事件から30年経っても、覚めない悪夢の中にいる。現実の事件でも、“全ての謎が一点の曇りもなく解明される”ことなど、ないのだろう。

 再びネタバレ注意。
 2。満喜子は『忘れられた祝祭』執筆時点で、メモの存在を知っていたのか。
 酒を運んだ青年は、伝票に書かれた送り主(当主の旧友)と届け先(青澤家)の住所を、どうやって知ったのか。
 青年の近所に住む子供が、警察に証言した。事件の前々日に彼が、二つの住所が書かれたメモを持ち帰った、と。警察は、主犯からの指示ではないかと必死に捜索したが、遂に発見できなかった。
 その証言を取った刑事が後日『祝祭』を読み、本の記述がメモの在り処を暗示していることに気づく。
 ……が、子供の証言は、報道されたようには思えない。満喜子は、執筆前にその“子供”本人には取材していない。その刑事にも。存在を知らなければ、暗示できる筈ないし。
 ただ満喜子が取材した中に、前述の婦警など、メモの存在を知る人物はいた。誰かが喋った可能性は、ゼロではない。続く。

(2008.11.5追記)
 3。盲目の緋紗子は字が書けたのか。
 子供は、〈一枚の藁半紙みたいなメモ〉に〈几帳面な字で、二つの住所が書かれていた〉と証言した。〈綺麗なさらっとした字体〉で、青年の筆跡ではないと言う。
 二つの住所がバラバラに書かれた紙を収集したわけではない。明らかに、目的を持って一枚の紙に記入している。しかし、そんな危険な物を、緋紗子が家族などに代筆させるとも思えない。書いた人間が、毒酒で死ぬとは限らないのだ。
 緋紗子が字が書ける、という記述はないが、少女時代の彼女は神がかり的なので、「書ける」と言われても私は信じる。綺麗な字体で几帳面に書けるかは、流石に疑問だが。
 ただ、間違いなく緋紗子は、二つの住所を暗記することはできたろう。例えば、教会に行って、彼女に懐いていた養護施設の子供たちに代筆させたのかもしれない(子供たちが綺麗な字体で几帳面に書けるかは、また疑問だが)。

 4。『忘れられた祝祭』の出版社に電話を掛けたのは誰か。
 出版の約一年後、出版社に、雑賀満喜子の連絡先を聞き出そうとする電話が掛かってきた。上品な中年婦人の声で、背景に潮騒が聞こえる場所から。後ろに若い女性がいて、彼女が電話を掛けさせたに違いないと、応対した編集者は言う。
 その若い女性は、恐らく緋紗子だ。“潮騒”という記述に、海辺の教会を連想したが、流石に“子供たち”にこの電話は無理だろう。
 ……まぁ、例えば緋紗子が結婚して転居した先で知り合った女性などに、深い事情は説明せずに掛けてもらったのかもしれない。続く。

(2008.11.6追記)
 5。台所に置かれた手紙は誰宛で、誰が書いたのか。誰が置いたのか。
 手紙はひどくたどたどしい字で、青年の指紋が付いていたが、彼が持ってきたのか触れただけなのかは不明。筆跡鑑定はできなかったという。
 文面は、実は緋紗子が青年と二人で作った詩だった。“たどたどしい字”なら、青年が左手で書くなり、緋紗子なり、“子供たち”の代筆なり、書ける人間はいると思う。
 誰宛か。青年が緋紗子宛に置いていった場合、盲目の彼女には読めない。ただ、後で警察から「こんな遺留品があった」と聞くことはできるだろう。
 或いは、緋紗子から青年宛かもしれない。この場合、酒が届く前に緋紗子が台所に入ったことになるが、家にいた人間の大半が死んだので、彼女の当日の行動は判らない。

 疑問点としては、こんなもんかな。
 ……ところで聞き手、終盤まで男性と思い込んでいたが、違ったのね(汗)。女性とも明記されていないが、満喜子の次兄と〈そういう仲だった〉と思われている、という記述があるから、女性だろう。
 私、聞き手は“雑賀満喜子”を調べているのだと思っていた。事件そのものに関心があるのなら、満喜子が取材した際に協力した後輩や、出版社の編集者に話を聞く必要はないから。事件のことは、彼女が書いた本の題材として、調べているんだと。
 出発点は次兄からの手紙だろうし、取材中に興味が“青澤緋紗子”へと移ったのは解る。しかし絶対、“雑賀満喜子”に興味を持った時期があると思うんだよね。理由は不明だけど。
 登場人物で姓名がはっきり判るのは、青澤緋紗子と雑賀満喜子だけだ。それ以外は、名前のない人物ばかり。二人だけが、この物語の中で別格だ。
 満喜子は、緋紗子を見られる者、自分を見る者と認識し、緋紗子の“正しい鑑賞者”であろうとした。『ユージニア』は満喜子と緋紗子の、或いは“緋紗子を鑑賞する満喜子”の物語であって、他の人物は脇役なのだと思う。実行犯の青年も、名前のない聞き手も。以上。

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【2008/10/31 21:40 】 | 感想ミステリ | コメント(0)
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