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【感想】「ひかりごけ」事件
「ひかりごけ」事件―難破船長食人犯罪の真相 昭和18年12月、北海道の知床岬で陸軍の徴用船が難破する。乗組員5人が死に、生き残った船長と少年も、氷雪に閉じ込められた。そして40数日後、少年が餓死する。
 2月、船長ただ一人が生還した。戦時中の折、彼を迎えた人々は“奇跡の神兵”と賞賛する。
 しかし5月。難破地点近くで発見された、人骨入りの箱。神兵は一転“人食い”として逮捕され、世界で唯一「食人」の罪で裁かれ投獄された。出所後も、船長は「殺して喰った」との風評に晒され続ける……。

 この事件がモデルの小説、武田泰淳『ひかりごけ』を私は知らない。ただ、書店で本書を見つけて手に取った。合田一道『「ひかりごけ」事件 難破船長食人犯罪の真相』(新風舎文庫)。著者が、頑なに沈黙する実在の船長のもとに15年通い続け、記したドキュメントである。

「ああ、わし、話してると、あんたの顔が食ってしまったシゲの顔に見えてくるんだ」
 こんな言い方はおこがましいが、読んで一番強く思うことは「可哀想」。船長は決して自分を許さない。もっと自分に甘い人間なら、ここまで自分を責め続けることもなかったろうに。著者に知床に行こうと誘われ、「シゲたちの霊にお祈りすれば、少しは胸のつかえとれるかもしれないな」と初めて笑顔を見せた船長は、行けずに亡くなった。平成元年。難破から、47年。
 武田泰淳は『ひかりごけ』中で問う。「たんなる殺人」「殺人はやらないで、自然死の人肉を食べる」、どちらが重罪か。それは難しい問題だと、著者は言う。「たんなる殺人」の方が明確に重いと、私は思う。

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【2006/02/20 21:00 】 | 感想NF | コメント(0)
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