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【感想】流人島にて
ひかりごけ  武田泰淳『ひかりごけ』(新潮文庫)。『流人島にて』『異形の者』(感想)『海肌の匂い』(感想)『ひかりごけ』の4編が収録されている。『ひかりごけ』目当てで買ったのだが、『流人島にて』が一番好き。
 作中のH島、Q島は、八丈島と八丈小島のこと。江戸時代に罪人が流された島だ。
 昭和20年代のある夏。30歳の“私”は、かつてそこにいたことがあるのを隠してQ島に渡る。実は“私”は15歳の頃、感化院に入れられ、Q島に送られた流人だった。そしてそこで、雇い主の大嶽に“殺された”のだ……。
 南の島の明るい日差しが、却って不安を煽る。『海肌の匂い』の、ブヨブヨしたものが肌にまとわりついているような居心地の悪さとは違う、喉の奥がひりひりするような焦燥感。“私”は何故、どのように大嶽に“殺された”のか。何をしに再びQ島に来たのか。はらはらしながら、急くように頁を繰る。
 一度最後まで読めば、特に大事件は起きないことはわかる。それでも、初読時に感じた不安感は消えない。
 八丈小島は1969年に全島民が撤退して、現在は無人島となっているそうである。

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【2006/05/19 21:00 】 | 感想日本文学 | コメント(0)
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