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【感想】黙示録3174年
黙示録3174年  ウォルター・ミラーJr『黙示録3174年』(創元SF文庫)。

 「火焔変動」、「放射性降下物の鬼」、そして「単純化革命」……地は核の業火に焼かれ、世には異形の者たちがあふれ、生き残った人々の間には科学者・技術者虐殺の嵐が吹き荒れるなか、リーボウィッツ修道院は書物を、知識を守り続けた。いつの日か人類が科学を必要とし、彼らに遺された財産を受け取りに来るときのために。
 しかし幾世紀もの果て、再び科学を手にした人類は……?

 ゼロ地点の場所より おゝ、主よ、われらを解きたまえ
 コバルトの雨より おゝ、主よ、われらを解きたまえ
 ストロンチウムの雨より おゝ、主よ、われらを解きたまえ
 セシウムの降り来たるより おゝ、主よ、われらを解きたまえ


 ……ぞっとしました。
 これは、単純化革命ののち、文明の闇の中で捧げられる祈りの言葉です。リーボウィッツ修道院の僧たちでさえ、自分たちが命がけで守っているものの中身を理解してはいません。ゼロ地点やコバルト、ストロンチウム、セシウムなどという言葉も、何だかわからないままに唱えているのでしょう。
 核戦争も、文明の失われた未来から見れば、宗教的な伝説になります。この本は、その「伝説化」の仕方がとても上手くて、使われている個々の単語が私たちには理解できるだけに、よけいぞっとするのです。
 そして、32世紀。人類は「火焔変動」前の水準を取り戻し、再び大地に〈ルシファー〉が落ちます。大量の放射能を浴び、安楽死を勧告された母子に対し修道院長は、

「したがって、あたしにこの子がゆっくり死んでいくのを見ていろというの――」
「ちがう! わたしは単に言っているのではない。キリストの司祭として、全能なる神の権威をもって命じているのだ。その子を手にかけるな、慈悲などという身勝手な偽の神への犠牲としてその子の命を利用するなと」


 私は聖書も読みますが、キリスト教徒ではないのでキリスト教の考え方をきちんと理解はできません。それでもこの本は、私の大好きな一冊です。
 リーボウィッツ修道院の置かれるテクサーカナは、アメリカの実在の町だそうです。中学校の地図帳程度では載っていない場所ですが、いつか実際にそこに行けたらなと思います。

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【2000/12/15 19:25 】 | 感想SF | コメント(0)
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