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【掌編】花の果て

 花が散る。

 はらはら、はらはら、桜の花が散る。

 夜。音もなく、雪が舞うかのように静かに降り積もり、月の光を浴びて、白くぼうっと浮かび上がる。
 桜並木の下には、一面の花びらの海。その真ん中で、ぼくたちは、春の死につつまれて、ただ立ち尽くしていた。
「……凄いね」
 ぼくがほうっとため息をつくと、隣の由貴哉(ゆきや)も、桜を見上げたままうなずいた。
「ああ。でも、この桜も今夜で見納めだな」
「そんなことないよ! また、」
 言いかけて、ぼくは言葉に詰まった。
 明日になれば、由貴哉は、遠くへと旅立ってしまう。次は、いつ会えるのか。そもそも、会えることなどあるのだろうか。
 ――また。
 そのあとにどんな言葉を続けても、嘘になってしまうような気がして、ぼくは、何も言えずにうつむくしかしかなかった。
 花びらが地面に落ちる音が聞こえるかのような、静寂。
「朔(さく)、」
 呼ばれて顔をあげると、由貴哉が、穏やかな笑顔で、ぼくを見ていた。
「――またな」
「由貴哉……」
 一瞬、泣きそうになったけれども。ぼくも、無理やりに笑って、答えた。
「うん。また」
 そうして、ぼくたちは、約束のない約束をした。

 もうすぐ、桜の季節が終わる。



〈了〉


 『夜な夜な短歌コミュ 1周年記念歌集』掲載の華さんの作品、「春の死につつまれたままぼくたちは約束のない約束をする」をもとに、勝手に書いた物です。すみません。

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【2015/04/11 22:10 】 | 掌編 | コメント(0)
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