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【感想】ライオンと魔女
ライオンと魔女 C.S.ルイス『ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり1』(岩波書店)。ファンタジーの古典で近年映画化されたが、映画も未見で全く内容を知らず。単行本版全7巻セットを結婚祝いで2009年に貰ったものの、引越し続きで押入れ内行方不明になり(汗)、ようやく発掘した。
 小学3、4年以上対象の本を三十路過ぎて初めて読み、「これはやはり、小中学生で読んだほうが楽しかったろうな」と思っていたら、最終巻で考えを改める。流石、ファンタジーの古典と言われるだけのことはある。

 原題"The Lion, the Witch and the Wardrobe"、即ち『ライオンと魔女と衣装箪笥』。第二次大戦中、ロンドンから田舎の古い屋敷に疎開したピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィの四兄妹が衣装箪笥を通って、白い魔女の支配下で百年の冬が続く異世界ナルニアに行く物語。
 ある雨の日、末っ子ルーシィが一人で衣装箪笥の向こうに迷い込む。帰還後すぐに兄姉に話して箪笥を見せたが、そのときは単なる箪笥で、話を信じて貰えない。
 次の雨の日、今度はルーシィと次男エドマンドがナルニアに行くが、彼は妹に意地悪したいがため、兄姉の前ではナルニアを否定する。
 そして、ついに四人がナルニアへと誘われる。

 最初にここまで読んだとき考えたのは、衣装箪笥がナルニアに繋がる機会に何か規則性があるのか? ということ。初回と2回目は雨の日。しかし、3回目は雨とは書かれていないし……。
 しかし、最終巻まで読んだ今は、断言する。
 2巻以降も、角笛で召喚されたり、船の絵に吸い込まれたり、といろいろな形で子供達はナルニアに行くが、全て自分から行ったのではない。ナルニアが彼らを必要としたときに、勝手に呼ばれるのだ。もし衣装箪笥の出入りに規則性があるのなら、それを把握できれば自分の意志で行けるということになる。だから、規則性はない。

 ルーシィは、初めてナルニアに行ったときフォーンのタムナスに出会い、白い魔女のせいでナルニアはずっと冬だ、という話を聞く。
 一方エドマンドは、最初にナルニアの女王(を自称する白い魔女)に出会い、優しくされて、魔法のかかった美味しいプリンを貰う。四兄妹全員で彼女の館に来たら、エドを王子にして兄妹も取り立ててやる、と約束される。
 エドが魔女の言うとおりに兄妹を館に連れて行こうとした行為を、この話の中では“裏切り”と呼ぶのだけれど、それはちょっと酷いと思う。読者は先にタムナスの話を読んだから、魔女が悪者だと知っているが、エドの立場からすれば、見知らぬ土地で最初に出会って親切にしてくれた人を信じただけ。
 ルーシィとエド両方の話を聞いた兄姉がルーシィを信じたのは、日頃の行いからして妥当。ただ、
「いったいフォーンがいいほうで、女王(そうか、この人は魔女だ魔女だといわれてるんだっけね)が悪いほうだと、どうしてぼくたちにわかるんだい?」
「フォーンはルーシィを助けてくれたよ」
「フォーンが、じぶんでそうだといっただけだ。でも、どうしたらぼくたちにそれがわかるの?」

 このエドの意見自体は、理屈としては何も間違っていないと思うんだ。
 “裏切り”とは、仲間を捨てて敵側につくこと。エドは別に兄妹を捨てたわけでもないし、魔女を自分の敵だとも思っていない。自分以外の3人が魔女を悪者だと思っていることは知っているけれど。
 結果から言えば、エドは騙されて、敵に兄妹を売り渡す寸前だった。それは反省すべき点。
 ただ、これを“裏切り”と呼ぶのならば、【ナルニアでは善と悪を本能的に察知せねばならず、そうと知らずとも悪の言葉を信じたら、善に対する背信である】と言われているようなものではないかと……。
 兄妹に食事をふるまってくれたビーバー曰く。
「はじめてお会いして、あのひとを見たとたんに、裏切りそうだな、と思いましたよ。もう、魔女の味方になって、魔女の食べ物を食べてしまった目つきでしたよ。ナルニアにずっとくらしていらっしゃれば、それがわかります、目を見ればよしとね」
 凄くハードル高い要求だぞ、それ。

 エドが一人で魔女の館へ行ってしまい、ビーバーとともに、ライオン王アスランに会うため旅していた兄妹三人のもとに、サンタクロースが現れる。百年の冬の間、ナルニアにクリスマスは来なかったが、アスランの来訪により魔女の魔法が綻び始めたのだ。サンタクロースは、ピーターには盾と剣、スーザンに弓矢と角笛、ルーシィに小瓶と短剣をくれる。
 ……1巻を2回読んだけれど、貰った弓矢と短剣、使わなかったね(汗)。と思ったら、2巻で弓矢が役に立って良かった。で、短剣は?(汗)
 ついでに言うと、サンタクロース、この巻しか出なかった。まぁ、他の巻は全部、冬の話じゃなかったからなー。

 兄妹がアスランと合流し、エドも魔女の手から奪還された。しかし、再び現れた魔女が、エドの命を要求する。
「このナルニアがそもそもできる時にあたって、あの大帝がくだした魔法は、ごぞんじのはずじゃ。裏切り者はことごとく、おきてにしたがってわらわの当然のえじきとなり、裏切りがあるたびに、わらわが、それに死をあたえる権利のあることは、ごぞんじのはずじゃ」
 アスランは魔女と取引し、自分が殺されることで、エドを救う。
 ……このままアスランが死んだままだったら凄い展開だけれど、きっと復活するんだろうなーと思いながら読んでいたら、やっぱり復活した(苦笑)。
「魔女はたしかに、古いもとの魔法を知ってはいたが、あれの知らない、もう一つもとの、もっと古い魔法のおきてがあったのだ。魔女の知るのは、ただこの世のはじまりどまりだった。だが、もう少し先を見通して、この世がはじまる前の、静けさとやみをつぶさにのぞんでおったなら、さらにちがったまじないが読みとれたはずだ。あの女は、なんの裏切りもおかさない者が進んでいけにえになって、裏切り者のかわりに殺された時、おきての石板はくだけ、死はふりだしにもどってしまうという、古いさだめを知らなかった」
 ここで疑問なのは、アスラン自身は古い定めを知っていたのか、ということ。悲壮な決意で自ら犠牲となり、死後に定めを悟って復活したのなら感動的だけれど。復活できると最初から承知で魔女と取引したのなら、ただの作戦じゃん(作戦だとしても、1回拷問死するのは嫌だろうけれど)。
 1巻ではどちらか判断し切れず。ナルニア創世を描いた6巻を読んでも、裏切り者云々の魔法も古い定めについても説明されていなかったが……個人的な印象としては、後者だな。アスランは知っていた、何故なら創世前の静けさと闇に臨んでいたから。

 訳者あとがきを読んで、作者のルイスが神学者であり、〈私のいわなければならない事がら〉を書くために〈子どものための物語〉という形式を使った、と知る。
 ……聖書か! 大帝=神、大帝の息子アスラン=イエス・キリストで、キリストの受難と復活だな!

 作中に四兄弟の年齢は明記されていないが、ルーシィとエドマンドは1歳違いとのこと。
 一年後の2巻冒頭で、ルーシィが初めて学校の寄宿舎に行くと書いてあったので、イギリスの初等教育を調べてみたが……よく解らん(汗)。
 イギリス公開講座: イギリスの教育制度 【私立 vs. 公立】
 男女別学の寄宿学校だよね? プレップ・スクールならば、8歳で入学らしい。
 2巻で兄弟、姉妹がそれぞれ同じ学校の生徒で、さらに一年後の3巻でピーターが入学試験のために勉強すると言っていたから、プレップ最終年の12歳? とすると、二年前の1巻時点でピーター10歳から、ルーシィ7歳までの、四人年子になるのだが。何にせよ、よく解らん(苦笑)。

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【2012/05/11 00:20 】 | 感想ファンタジー | コメント(0)
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