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【感想】海肌の匂い
ひかりごけ  武田泰淳『流人島にて』(感想)(新潮文庫『ひかりごけ』収録)のQ島の住民は、本土から見れば異端だろうが、土着ではない流人の“私”や大嶽は、島の中で更に異端だった。『異形の者』(感想)の僧侶たちは、世俗の中で異端。『ひかりごけ』の人肉を食べてしまった船長は、人間社会の中で異端として扱われる。
 『海肌の匂い』では、沼津の町中から漁村のS部落に嫁いで間もない若い妻・市子が、異端である。S部落の“けだるいようなヌルリとしたおだやかさ”が、形のない不安となって市子を圧迫する。

 その頃、村は不漁に苦しんでいた。女が乗るのはタブーとされている船に初めて市子が乗った日、久々の大漁となり、村は歓喜に沸き返る。だが、それで市子が漁村に溶け込むことができてめでたしめでたし、ではない。“人間社会のとりかえしつかぬ異端者になってしまった”村の狂女を見ながら、市子は、自分がそうなることもあり得る、と思って話が終わるのである。読者の私まで、いつかそうなるかもしれない、と感じる。
 ところで、作中のA島は淡島だと思うのだが、そうするとS部落はどこだろう。

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【2006/05/23 21:00 】 | 感想日本文学 | コメント(0)
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